ぼくは、勾配のある普通の屋根に強い愛着を持っていて、都内に建つコンクリト造住宅でも屋根を架けた設計をすることが多い。建築家の友人の中には、雨の多い日本の風土においては絶対に勾配屋根を架けるべきだと主張して、設計の上でもそのとおり実践している人もいるが、ぼくの屋根に対する愛着は必ずしも雨漏り対策に由来するものではない。平らな屋上は確かに雨漏りの原因になりやすい点もあり、ぼくも駆け出しの頃にない体験がないでもないが、それは現在の防水技術と設計の経験の積み重ねによって比較的容易に克服できる問題で、今では屋上をつくったからという理由で雨漏りの心配をすることはまったくない。
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ぼくが勾配屋根を好むのは、それが個人住宅の私性、つまり「あれが私の家だ」という感覚、に対応する効果的な象徴になると感じるからである。屋根の勾配が空に描くシルエットには、その家を他の家々や周囲の風景から明確に分離させ、アイデンティティを与える力がある。雨の多い日本では古来、屋根が家の象徴として強く意識されてきたようだ。なかでもとくに強く意識されたのは屋根の頂上、つまり棟であり、それは伝統的建築様式において棟の装飾が大切にされたことからも明らかだ。